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第12回トレイルランナー鏑木毅×GONTEXテーピング 
コラム【全12回】

 『本場アメリカ100マイルで初優勝 BIG HORN100』 
           ~ 後 編 ~
                 鏑木 毅

【頼もしいペーサーとともにゴールを目指す】
アメリカ、ワイオミング州の100マイルレース、ビッグホーン100も終盤に入ります。序盤20位前後だった順位も粘りの走りで中盤に入り3位まで上げてきました。110kmのエイドステイションでペーサーのジャスティンと出会います。ペーサー制度は北米のトレイルランの独特のカルチャーで、体力的に厳しくなる100km以降に選手の安全を図るために伴走者をつけても良いというシステムです。

今回引き受けてくれたジャスティンさんは、サポートの岩佐さんの計らいでカナダと国境を接するモンタナ州のトップランナーで走力も経験も十分。過去に長野県・新潟県で開催された100マイルレース信越五岳にも参戦したこともあり、現在はモンタナ大学で経済学の教鞭をとっている学者という顔も持っています。この先、勝負をかける終盤に彼の存在は大きなものとなります。
彼とはこの一年後に再び、コロラド州のハードロック100でペーサーとしてともに闘うとことになろうとはこの時には思うよしもありません。

レース前日にジャスティンさんに会い「とにかく優勝したい。先行するランナーに追いつくようなペースで強引でもいいから引っ張って欲しい」と伝えました。彼も笑顔で一緒に頑張ろうと誓いあいました。

ここまで110km。確かにUTMBのような激しいアップダウンのコースではありませんが、スタートから標高2000m~3000mの高地帯でハイペースで押してきたためにさすがに全身が疲労に襲われています。
ただ100マイルレースはいつもそうです。100kmを越えてくると、1km先がゴールでもおかしくないような状態になります。傍目には順調にペースを刻んでいるように見えても、実のところ綱渡り状態なのです。

そして100kmを過ぎるとペースを自力でつくることは難しくなります。特にナイトセクションでは、自分では精一杯走っていると思いつつも、どうしてもペースは知らず知らずのうちに落ちてしまいます。そして時には逃れようのない孤独感に包まれ心がネガティブな方向にふれレースを投げ出したくなるような感情に襲われます。だからこそ常に寄り添い励まし続けてくれるペーサーは本当に心強い味方なのです。
4、5m先をペーサーのジャスティンに先導して貰い、時に言葉で叱咤激励してもらいながら自分の弱い心を奮い立たせてくれるのです。

マイペースで完走を目指すのなら、またヨーロッパのような険しいアップダウンのコースであればあくまで単独で自分のペースで闘った方が良いこともあるかもしれません。しかし、北米のような地形的に緩い走れるトレイルではペーサーの有無は結果として大きな差になります。

ジャスティンは私の疲労の状態を窺いながら「このペースなら少しずつ前と詰まって来ているはずだ」と客観的に指摘してくれ、ずっと前後の選手も見えず一人で走ってきた自分にはこの上ない存在です。

また彼はエイドに入ると私が補給に集中している間にエイドのスタッフとのコミュニケーションの中で、先行するランナーとの時間差や戦況に有利になる様々な情報を収集し、エイドを出た先で「前のエイドより5分詰まっていると」などと、その得た情報を即座に伝え奮起させてくれます。互いに初対面ではありますが、絶妙な連携プレーでトップを狙います。

そしてラスト20kmのエイドステイションの手前でマッド・ハート選手を抜いて遂に2位にまで順位を上げました。マッド選手からは何と「トップまで行けるよ。せっかく遠くから来たんだから優勝した方がいいよ」と疲れた表情で温かいエールを頂きました。

【レース最終版での大逆転劇へ】
この20kmのエイドで遂にトップをゆくザック・ミラー選手とは10分あまりまで詰まってきました。一時は全く差が詰まらず優勝を諦めかけましたが残り20kmまで来てザック選手もついに疲労が極限にまで達したのか僅かな距離でその差が一気に10分にまで詰まってきました。
意外に差がつまる時はこんなもので、それまで膠着状態が続いた互いの神経戦もどこかのタイミングで一気に戦局が変わるのです。折り返してずっとこの時を待っていました。
「ここだ」と思い、一気に畳みかけるように残っている力を振り絞りペースアップし勝負をかけます。
ゴールまでのあと20km。10kmにわたる長いトレイルを下れば、残り10kmは平坦な林道で、もうこの先に上りはありません。そう思い脚が痛いという感情を押し殺し、残り少ない力を振り絞って下りトレイルを駆け下ります。
やがて辺りがうっすらと明るくなりはじめました。長い夜が遂に明けました。
そしてその時ザック・ミラー選手の背中を確認することができました。80kmの折り返しでは軽快なステップの足取りも疲労でかなり鈍っていました。

最終版の勝負がかかった局面で相手の状態を冷静にまずは窺います。まだ足取りがしっかりとしているのであれば、暫くは並走し抜くチャンスを待ちます。
もし疲労が激しいようだったら即座に勝負します。一気に抜くことで相手にメンタル的なダメージを与え、追走する心を砕きます。ずる賢く思えるかもしれませんがこれが私の長年のキャリアのなかで学んだ勝利の方程式です。

ザック選手の疲労が予想外に激しい様子を窺い一気に勝負をかけました。ジャスティンもこの意図を理解したのか「彼から見えなくなるまでスピードを緩めるな」と小声で伝えます。やはりここまで来たら何としても優勝したい、私もジャスティンも同じ気持ちでした。
ザック選手を抜いてからの平坦な10kmの林道がとてつもなく長く感じられます。ここまでのペースアップでさすがに疲労は極限にまで達していました。
ジャスティンからは「最後までしっかり行こう」と何度も励まされ、きっとその言葉がなければ挫けそうなほどに辛い10kmを終え、早朝の誰もいないデイトンの街へ戻ってきたのです。そして湖畔沿いのゴールに遂にたどり着いたのです。
18時間51分。大会史上3番目の好タイム。
2010年大会で18時間42分で優勝したマイク・ウルフ選手はこの2か月後のUTMBで2位。2012年18時間36分で優勝したマイク・フート選手も同様に2か月後のUTMBで3位に入賞したことを考えると、44歳にしては本当に良く闘ったと感じたのです。ペーサーのジャスティンも「鏑木さんの走りは僕にもいい勉強になったよ」と私の勝利を心から讃えてくれたのです。

アワードパーティーは翌日の早朝に行われます。
これもアメリカのトレイルランニングレースの独特のスタイルで、街の広場に参加者が集まり各々朝食を摂りながらの表彰式となります。
男女の優勝はここで手短なスピーチが慣例となっており、私も拙い英語で主催者への感謝と素晴らしい大会だったこと、そしてこの大会の思い出を日本に伝えたいとの思いを伝えました。
果たしてそのスピーチのとおりこの一年後にこのビッグホーン100で得たインスピレーションを「スパトレイル四万to草津」として実現化しました。

きっと今まで渡米した日本人は星の数ほどいるでしょう。しかしこのワイオミング、しかもこれほどの大自然のなかを訪れた日本人は一体これまで何人いたでしょうか。こんなことを考えると一回一回の機会を大切にして、ここで得た経験を多くの日本の方々に伝えたいと言う気持ちが改めて湧きあがります。

UTMBを離れての新しい旅のはじまりは私にとって素晴らしいものとなったのです。

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写真:110kmのエイドステイションでペーサーのジャスティンに出会う。
アメリカのメジャーレースでも何度も表彰台に上がった経験のあるトップレーサー。いつか日本に来る機会があればまたともに走りたい。
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写真:私にとっても、日本人トレイルランナーにとっても海外メジャーレースでの初優勝の瞬間。早朝4時前、ゴールにはほとんど人気はなかったが生涯忘れない最高の瞬間だった。

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写真:ペーサーのジャスティンと。今まで面識もなかった二人だが、苦しいレース終盤を共有することで一気に絆が深まった。この経験があったからこそ一年後のハードロック100のペーサーも快く引き受けてくれた。

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写真:レース終了後、上位3選手がレースを振り返り「感想戦」。
左から2位のザック・ミラー選手、ペーサーのジャスティン、3位のマッド・ハート選手。私の後塵を拝する結果となってしまった二人は悔しそうだったが
互いに健闘を称えあった。こういった場で大切なのは「トレーニング法」や
「レースの情報」を聞き出すこと。トップ選手からの生の情報は何よりも得難いもの。
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写真:今回優勝、そしてもう一つの奇跡はレース直後でも食事を美味しく摂れたこと。いつもなら胃腸障害で2日くらはまともに食べられないのに・・。あれほど事前にジャンキーな食事を摂ったにも関わらず胃腸の調整はレース後でも絶好調なのが不思議だった。未だにこの奇跡の因果関係が解明できない。100マイルレースは何と奥深いものなのか。
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写真:レース翌日の早朝に行われたアワードパーティー。パスタや
パン、スクランブルエッグ、コーヒー、オレンジジュースなどなど
自由に摂れるスタイル。アットホームな北米のトレイルランニングカルチャーを感じる。100マイルを走り体ざkkはボロボロなのにみんな元気なことに驚かされる。100マイル本場の国のランナーのタフさには頭が下がる。
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写真:各入賞者にはビッグホーン100のコース中にある川にある丸石が
トロフィーとして贈呈される。北米のレースではどこのレースでもオリジナリティー溢れたトロフィーが贈呈される。
私が頂いたのは左から2つ目の石。なかなかの重量で持ち帰るのが大変だった。
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写真:パーティーの最後に男女優勝者のスピーチ。大勢のギャラリーの前で
拙い英語で喋るのは恥ずかしかったが、会場が静まり丁寧に耳を傾けてくれたのが嬉しかった。

《ミニテーピング講座》
~脚バテしてないのに後半失速は腰の疲労が原因のことが多い~
      腰テーピングで好成績に結び付けよう 

 今回は腰のテーピングについてお話します。トレイルランのレースで後半失速している選手に共通していることの一つに、腰から背中にかけて丸まっているということを感じたことはないでしょうか。トレイルランでは上り姿勢の時にどうしても上半身が丸まってしまい、知らず知らずのうちに脊柱起立筋を中心とした腰部の疲労を蓄積させることで上体を支えきれずに背部が丸々ことでフォームを崩し失速するケースを良く目にします。
腰部への疲労は痛みや違和感としてあまり出ることはありませんが、無意識のなかでフォームのアンバランスを引き起こしパフォーマンスダウンの大きな要因になっています。脚力はまだ残っているはずなのに、何故かペースダウンしてしまうというケースでは、多分に腰部の疲労がきっかけになっています。
レースに際しては腰の不安あるなしに関わらず予め以下のテーピング法をお薦めします。また、このテーピング法だけは一人ではかなり難しいので自宅を出る前に家族に施してもらうなどの工夫が必要になりますが、効果は大きいので是非とも試してみてください。

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写真:まずは5㎝幅のテープを30㎝程の長さで2本用意します。
貼る体勢は椅子の背もたれなどに手をつき、腰を伸ばした状態で軽く前傾した姿勢です。

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写真:背骨の両側の筋肉(脊柱起立筋)に2本のテープを施します。腰骨の上部の高さからスタートし背中の中ほどまで伸ばします。テープはくれぐれも伸ばさずに貼るのがコツです。

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