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第11回トレイルランナー鏑木毅×GONTEXテーピング 
コラム【全12回】

『本場アメリカ100マイルで初優勝 BIG HORN100』~ 中 編 ~
鏑木 毅

【新しい旅のスタート】
38歳から43歳まで6年間に及ぶ最高峰UTMBの挑戦を終え、プロトレイルランナーとしての第二ステージのスタートとして選んだのがアメリカ、ワイオミング州での100マイルレース、ビッグホーン100でした。2013年の6月、44歳での挑戦となりました。

 スタート地点はデイトンという街から5kmほど郊外にある本格山岳に入る手前にある渓谷沿いの地点。午前9時のスタートは100マイルレースとしては異例の時間といって良いでしょう。ビッグホーン100の例年の優勝者のタイムが概ね20時間ほどですから、トップ選手のゴールは最も応援者が少ない早朝午前5時頃となります。多くの選手がゴールするのは翌日のお昼過ぎ。この時間が最も多くの観客に出迎えられゴールすることができます。ヨーロッパのレースの多くが優勝者のゴール時間が最も観客が多い時間となるよう設定する傾向にありますが、ここが自由と平等を掲げるアメリカならではの考え方で、数少ない一部のトップ選手でなく、多くの一般ランナーが最も脚光を浴びるような工夫がここにあります。

スタートし、渓谷沿いのジープロードを5kmほど経て、上りのトレイルへ入ってゆきます。前方には20名ほどのランナーが先行します。先頭のペースはUTMBのような狂ったようなハイペースではありませんが、44歳の私には追走が難しいスピード。「先は長い、まずは景色でも楽しみながらゆっくり行こう」と開き直り、開けた明るい疎林の緩い上りをマイペースで行きます。

やがて20kmの初めてのエイドステイションへ。
先頭とは15分ほどの差があるとのこと、順位は20番前後でしょうか。
ここまで標高差1000mほど上り、標高2000mを越える高地帯へ入って来ました。
今回注意したのは常に腕時計で高度をこまめに確認すること。アメリカのトレイルでは周囲の景色では高度感が測れないのです。このエイドステイション周辺の風景もとてもここが標高2000mを越えた高地には思えません。日本の感覚で飛ばしてしまうと、あっという間に高地障害を引き起こしてしまいますから、高度確認をしながらペースコントロールをすることが大きな鍵となります。

エイドステイションを後にすると夢のようなトレイルが続きます。
美しい森の中に幅50㎝ほどの細くはありますがはっきりとした道。大自然のなかに人間が辿ることを許された贅沢な道です。
緩いアップダウンで、さして頑張らなくともどこまでも心地よく走り続けることができます。
地形が急峻な日本やヨーロッパでは決して味わえないような、どんなレベルの方でもストレスなく長い時間走り続けることができる心地よい道づけのトレイルです。
確かにハイカーでもこんなトレイルでは歩くよりも軽くランニングを入れた方が心地よく楽しめる気がします。こんな感覚が北米が発祥のトレイルランニングの原点なのだろうと実感します。アメリカのトレイルランニング文化の起源に触れたような心持になりました。

2014年に群馬県でプロデュースした「スパトレイル四万to草津」は走力のないランナーでも美しい森のなかを長時間走れることを楽しめる大会をテーマに掲げていますが、この時のインスピレーションが源となっています。
しばらくこの心地よいトレイルを堪能し、やがて標高2000mの高地から標高差1000m程下降し50km地点のエイドステイションへ進みます。

【勝負は30kmも続く上り坂で】
このエイドステイションから先は30kmで約標高差2000mほどアップする延々の上りパートに入ります。レース前からこの区間が勝負と見据えていました。小川の渡渉を繰り返しながら再び徐々に標高を上げてゆきます。
30分に一回くらいのペースで一人一人と抜いてゆきます。

少しずつ高度を上げるのを高度計を確認しながら、高地障害を起こさないようにペースを微調整しながら進みます。それにしても息を呑むような美しいも森です。
長年、世界中のウルトラトレイルの大会に出場し続けて感じるのは、最も美しい景色をカメラに収められないもどかしさです。カメラを撮る時間も惜しまれる勝負のかかったレースとは言え、得てして最高の絶景はカメラマンも立ち入ることが難しい人間界とは隔絶されたエリアで遭遇することが多く、今回も自分の眼だけにこの絶景を焼き付けたのです。

延々上り続け標高は既に3000m近くまで達しっています。日本であれば走れる緩い上りパートでも、歩きを入れなければ息が切れるのはそのためです。

レースプランとして考えていたのは、折り返しの80kmまでは順位を気にしないでゆこうということ。80kmの折り返し手前でトップをゆく大柄なザック・ミラー選手とすれ違います。笑顔で声を掛け合いますが互いに表情を確認し余力を窺います。約20分ほどの差でした。そして二番目にすれ違ったマッド・ハート選手とは10分程の差。ここで現在3位であることを初めて知ることになります。この時点で初めて勝負を意識し始めました。あと残り80kmで二人を抜くための戦略的なイメージを頭で練りはじめました。

折り返し今まで来たトレイルを忠実に戻ります。ほどなくするとと次第に日が落ちてきます。ここまで9時間あまり、今度は延々30kmに及ぶ下りパートになります。決してUTMBのような急激なアップダウンの連続のコースではありませんが、体が重怠くいつものようにリズムに乗って走れないのはきっと高地で酸素が薄いためと解釈し、弱気にならずにあくまで冷静に今できる効率的な走りをし続けるしかありません。

薄暗いトレイルをかけていると突然、トレイルを塞ぐ大きな黒い塊がありました。何とムースと呼ばれるヘラ鹿がトレイル上を塞ぐように横たわっているのです。鹿の仲間でありますが、大きさは牛三頭分くらいの巨大な生き物で暗闇のなかではまるで小さな山のようでした。遭遇することがあると事前に知らされていましたがこれほど大きなものとは予想だにしませんでした。名前の由来となっている角の大きさは畳一畳くらいはあるでしょうか。もし突進でもされたらひとたまりもありません、直接ライトを向けないようにしながら、トレイルを外して静かに迂回し通り過ぎました。
レースとは言え漆黒の闇のなか人里から隔絶された山地帯を一人で走るのは本当に寂しいものです。闇のなか前をゆく二人の選手のことを考えながら、一歩一歩手を抜かずに走り続ける心がすり減るような時間が続きます。
ともするとネガティブな気持ちに支配されそうになる心を必死に食い止めながらも、限りある人生のなかでこの壮大な大自然のなかを走る機会を得たことへの喜びを前向きな気持ちに変えて頑張り続けます。
今まで世界中のどこのフィールドを走っている時でもこう思うことで乗り越えて来ました。とにかく「負」の気持ちを抱いたら一瞬のうちに奈落の底に引きずり込まれてゆくのです。何が起きようとも絶対に前向きな心を折らせない心のコントロールが大切なのです。

110kmのエイドステイションまであと少しです。
ここから先は待ちに待ったペーサー(伴走者)と出会えることができます。
きっとまた新しい気持ちでこの先のトレイルへ立ち向かえるはずです。

~ 後編に続く ~

 

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写真:2013ビッグホーン100がスタート。予想通りかなり速いペースの出だし。
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写真:高地でも急激な気候変動が少なく、多くのエイドステイションが設置され、安全性が高いアメリカの100マイルレースでは一般ランナーでも軽装備な選手が多い。
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写真:約20km地点の最初のエイドステイション。上半身裸で両手にハンドボトルのスタイルはアメリカのウルトラトレイルでは人気のスタイル。現地のスタッフに何度かこのスタイルを薦められたが、私はこのスタイルはどうも・・・。
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写真:北米のレースの多くのエイドステイションはこんな感じのスタイル。チップス、M&Mチョコレート、ジェリービーンズはエイドの鉄板メニュー。
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写真:一台のドリンクマシーンから4種類のドリンクが飲める便利なマシーン。
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写真:急激な上り下りパートはあるものの、概ねはこんな牧歌的な風景が続き走り易いコース。

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写真:50kmのエイドステイションを過ぎここから30kmに及ぶ長い上りが続く。この時点で順位は10番前後、ここから本格的な追い上げがはじまる。

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写真:80kmの折り返し付近の森の風景。奥深い森林地帯でトレイルもなくなり、オレンジの目印だけが頼り。標高は3000m近いが辺りの風景からはさほど高地と感じられないのがアメリカのレースの難しいところ。
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写真:80kmの折り返し地点のエイドステイション。トップを行くザック・ミラー選手。

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写真:80km折り返し地点のエイドステイション。トップのザック選手から20分差で追走する。
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写真:折り返し地点で2位のマッド選手。

《ミニテーピング講座》
~トレイルランニングには必携
捻挫予防だけではない足首テーピングのメリット ~

 数あるテーピング法のなかでトレイルランに最も大切なものはと問われたら躊躇なく答えるのが「足首テーピング」です。
トレイルランのシーンでの怪我で最も症例の多いのが足首の捻挫。不整地を走ることからギビナーからベテランまでこの怪我に遭遇したことのない方はいないのではないでしょうか。私も軽いものを含めて一年に一回は足首捻挫を経験します。
このため3時間以上のトレイルラン、また走スピードが上がるレースの時には必ずこの足首テーピングを施した上で走りだすようにしています。
よく誤解されるますが、足首テーピングを施すことで必ずしも足を捻ることを防ぐことができるわけではありません、故障のリスクを下げる働きがあるという表現が正しいといえるでしょう。例えば捻挫をしてもテーピングをしていなければ走ることができないような捻じりでも、テーピング効果で捻じりを最小限に抑え走り続けることできますし、また治癒までに相当時間がかかる深刻な捻挫であってもその症状を緩和することで、結果として復帰までの時間が大幅に短縮することができます。
このように足首捻挫はリスク回避といった「防御的」な役割が大きいのですが実は、走行率を上げるという「攻め」の要素もあります。
トレイルランでは上りも下りも足首部分に大きな衝撃がかかります。足首テーピングは地面をしっかりと捉える保持力を高めることが可能となり、安定感ある走りを続けることができます。
また、テーピング効果で足首の余分なブレや動きをコントロールすることで効率の良い「最適化」した走りができるようになります。
足首テーピングをすることで固定化され動きが制限されているはずなのに、下半身が安定して楽に足が蹴りだせるように感じるのはこのためです。
これらのことから、足首テーピングは捻挫の不安のある片方の足だけに施すことはお勧めしません。必ず「両方の足」に施すことで走りのバランスをとることで大きなメリットを得ることができます。

最後に足首テーピングは最も重要なテーピング方にも関わらず「スターアップ」、「フィギアエイト」、「ヒールロック」といった3つのポイントを意識したテーピング術が必要で、施すには時間がかかり技術が必要です。この一連のポイントを一枚のテープでビギナーでも手軽に施すことができるようにしたのがゴンテックスの「足首貼足3」です。
この製品はしっかりとした固定を確保しながら、特に「縦方向」の可動域がでるような工夫がなされており、まさに「防御」と「攻め」を両立させたテーピングと言えます。

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写真:ゴンテックス「足首貼足3」。通常慣れた方でも片足10分近くかかる足首テーピングが、ビギナーでも1分もあれば簡単にできるのが最大の特徴。
「フィギアエイト」、「スターアップ」、「ヒールロック」の足首テーピングの3つの要素がこの一本のテープで可能です。
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写真:中央の剥離紙を剥がし真ん中のテープ部(スターアップ部分)が踝(くるぶし)の位置に来るように足裏を乗せ、フィギアエイトの2本のテープをクロスさせ甲を包むように巻く。
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写真:次に中央部分の2つのテープ部(スターアップ部)を踝(くるぶし)を
覆うように上部に貼ります。実はこのテープだけは固定性を強めるために全く伸びない構造になっています。そして最後に残された2つのテープ(ヒールロック)を踵を固定するようにクロスさせて貼れば完成です。

《マメ知識》
トレイルランや登山などで行動中にかなり重い捻挫をしてしまったら、患部の足首に2重で足首貼足を施して下さい。鬱血(うっけつ)を防ぐために少し強めに巻くのがポイントです。これで走れないまでも歩いて行動することは可能になるはずです。セルフレスキューの考えが第一にある山ならではの応急的な対処法です。恥ずかしながら私も何度かこの方法で窮地を切り抜けることができましたので万が一に備えて予め知って頂ければと思います。

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