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第9回トレイルランナー鏑木毅×GONTEXテーピング
コラム【全12回】
『パタゴニアの疾風 ウルトラ・フィオルド』 ~ 後 編 ~
鏑木 毅

南米大陸の最南端パタゴニアは世界の果てとも形容される荒涼とした大地。ここで開催された100マイル(コース変更で141kmへ)レース「ウルトラ・フィオルド」も100kmを過ぎ、ゴールのプエルトナタレスの街まで40km以上のアップダウンが激しいダート林道が続きます。
現在、前を行くトーマス・エルンスト選手(スイス)からは1時間の遅れをとり2位。
ウルトラトレイルは最後まで何が起きるかわかりませんから、最後まで逆転を信じて気を取り直してエイドをスタートします。
しかし、50kmから100kmまで続いた極寒の山岳地帯で90パーセント以上の体力を既に奪われ、この体でアップダウンの激しいフルマラソンの距離の行程を走ることが果たしてできるのか不安でなりませんでした。

走りはじめて直ぐに襲ったのは激しい胃腸のトラブル。きっと寒さで内臓の機能が低下したのか、100kmのエイドステイションで食べた雑炊、みそ汁などを直ぐにもどしてしまいまいました。

胃が消化という行為をあきらかに拒み、ジェルを一口食べてももどしてしまいます。体が追い込む行為をすぐに止めて休ませろとの抵抗をしているのです。とにかくこのままでは体にエネルギーを入れることができず、早晩走れなくなるのは目に見えています。
いくら私が体脂肪を極限まで効率よく使える体だとしても、糖エネルギーがなければ脂肪を燃やすことはできません。ましてや氷点下のなかでのレースですから基礎代謝が高くなり、よりハンガーノック(低血糖症)に陥るリスクは高くなります。
そこで考えたのは左手のグローブにジェルを塗りだくり、グローブを舐めることで、少しでもエネルギーを摂取する作戦です。

不思議なもので窮地に立たされた時に、いつもこんなアイデアが浮かびます。
これは才能でもなんでもなく、極限に立たされるとそれを打開するような考えが自然に浮かぶのです。今まで乗り越えてきた自信こそが柔軟なアイデアを生み出す力になっているのかもしれません。

しかし全身の怠さと脚の痛さが強く、先を見ると遥か地平線まで続くダート林道。あそこまで行くのかと思うと心が萎えます。
ひたすら目線を下におろし足元の地面だけを見つめながら進みます。
やがて脚が痛すぎて走り続けることができなくなると、100歩走り、10歩を歩く、そしてまた100歩走る、10歩を歩くを延々繰り返しました。
痛いという感情を置き去り、体を前に運ぶことだけに神経を集中させるのです。
「決して特別な状況じゃない、いつも乗り越えてきた当たり前のこと」と心のなかで唱え、一歩脚を前に出せば、ゴールのプンタアレナスに一歩ぶん近づくと思いつつ耐え凌ぐ延々続く苦しい時間。そしてこの無間地獄のような状況もいつかは終わると思い続けます。

極度の疲労で脳もおかしな思考に陥ります。今が過去の出来事をなぞっているような不思議な感覚に陥ったり、結婚する前に妻と一緒に出掛けた長野の高原を走っていて、若い頃の姿の妻が応援しているような感覚にもなったり、
思えば奇しくもこのレース中に、地球の真裏日本では娘の幼稚園への入園式が行わわているはずです。無事に終わったのかなと思い浮かべたり、夢想の世界と現実世界とを頭の中で何度も行ったり来たりを繰り返します。

正直なことを言えば100kmのエイドを出た時には何とか1時間の差を詰めて優勝をと考えましたが、いつしかそんなことは忘れ、ひたすらこの40kmという距離を渡りきることしか浮かびませんでした。
ウルトラトレイルとはこんなものです。たとえ優勝を狙えるような上位を走っていても、果たしてゴールまでたどり着けるかことができるのかという心の不安を常に抱きながら必死でそれと闘いながら進むのです。
ウルトラトレイルが人との闘いではなく、自分自身との闘いと表現されるのはこんなところにあるのかもしれません。
終わりがないと思えた闘いもついにそのフィナーレが近づいてきました。
果てしなく続いた地平線の先にやがて海が広がり、そしてプンタアレナスの街がついに見えたのです。

実はこのレース中にずっと恐れていたのは2年前に患った心臓のトラブル。
あの時にも100km近くの距離で発症しました。もしかしたら今回もと思うとずっと心の奥底で何とも言えない不安に怯えていました。
しかし、ついにここまで無事に走れたのが何より嬉しい。
また次のチャレンジができる喜びを噛みしめながらついてゴールラインを越えることができたのです。

18時間53分で2位。もちろん優勝できれば最高ですが、やれるべき準備はしたし、持てる限りの力を尽くしてのこの結果。満足感と安堵感で目頭が熱くなりました。
結局、優勝したトーマス・エルンスト選手とは1時間の差。最後の40kmもほぼ同じタイムで走っていたことを思うと、きっとトーマス選手も私と同じような葛藤を乗り越えたのだという親近感が湧き、彼の勝利を心から祝福したい気持ちになりました。

どんなに苦しいレースだとしても、二度と来たくないなんて思ったことは一度もありません。全身全霊をこめて闘った地はいつでも自分にとって唯一無二な思い出の地になります。いつかまたこの場所に戻りたい。そんな思いを抱きながらこの地を後にしました。

    ~ パタゴニアの疾風 ウルトラ・フィオルド 終わり ~

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写真:100kmからゴールまで延々続くダート林道。地平線まで見渡せるだけにかえって精神的に辛く、最後の方は幻覚と幻影を見ながら心の葛藤を繰り返しながら進む。
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写真:あまりの苦しさに思わず逃げたくなる。でも今まで闘ってきたどのレースも必死に耐えてきた。今回も必ずできると心に誓う。
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写真:ずっと心に抱いてきた念願のゴール。心臓のトラブルから完全に復帰できたことが何よりも嬉しかった。
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写真:ゴール後、厳しいレースを終えることができた安堵感と全力を尽くした満足感から自然と涙がこぼれ落ちた。
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写真:レース後の表彰式。手に入れることができるのはシンプルなメダルだけだが、自信と誇りをかけて闘った18時間あまりの時間は今でも自分の宝物だ。
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写真:レースが終わり、極度の疲労で神経が興奮し一晩全く眠れずに朝を迎える。さすがに顔がやつれている。胃腸の調子が悪く、日本から持参したお粥を少しずつ食べながら回復を図る。

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写真:レース二日後、胃腸の調子も戻り、献身的なサポートをしてくれた磯村さんと祝杯。このひと時はいつまでも忘れない思い出。

 

《ミニテーピング講座》

~ 何故足裏テーピングがトレイルランにお勧めなのか ~

ランニングで最も故障が長引くやっかいな3つの症状は「アキレス腱炎」、「股関節炎」、そして「足底筋膜炎」と言えると思います。
この3つはとにかく治りにくく、できることなら何としても回避したい故障。
このなかでトレイルランナーが陥り易いのが「足底筋膜炎」ではないでしょうか。
上りパートで足裏の前足部に過度に頼る傾向が強くなるために、どうしても足底筋に負担がかかってきます。初めは違和感と強い凝りの感覚だけですが、しかし一旦痛みが出てしまうとなかなかこの痛みが引かず、かつ治癒のタイミングがつかめにくくとにかく辛いのが足底筋膜炎の特徴です。
その予防に最も効果あるテーピングが、ゴンテックス「足裏貼足4」。
もちろん故障を未然に防ぐというディフェンシブな面だけでなく、
特に上りでパートでのランニング姿勢を無理なく維持でき、脚部全体のバランス保持力が高まることによりランニングエコノミーアップにも役立ちます。
また、副次的なメリットとして足裏のマメ防止にも有効です。
ランニングにおける足底筋の重要度は、感じにくい点ではありますが実はパフォーマンスに大きな違いが出てくる部分ですので是非とも一度試して欲しいです。

最近は「厚底シューズ」を利用される方が多く、前足部着地(フォアフット)に頼りがちであるために足底筋膜炎になる方が多いようです。
足裏の疲労は大腿前面部や脹脛部といったような大きな筋肉にくらべ深刻化するまで痛みの感覚がでにくい部位なので、とにかく普段のケアが大切です。
是非一度「足裏貼足4」を試してみてください!

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写真:「ゴンテックス4番 足裏貼足」。裏面の説明書きに従い貼って下さい。
貼り方は思ったよりも簡単です。

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写真:ポイントは他のテーピング方法よりもやや強めなテンションで貼って
下さい。足底筋のトラブル防止はもちろん、ランニング時のバランス保持力が上がるとともに、足裏のマメ防止などの効果あるなどその効用は大きなものがあります。

今回の「ウルトラ・フィオルド」の挑戦の
のストーリーは「神の領域を走る(㈱NHKエンタープライズ)」
として映像化されています。
是非ご覧ください!

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